スタッフのコラム

リッショウ?ジッショウ?(弁護士村上英樹)

 依頼を受けている事件について、弁護士が使う言葉で、一般には馴染みにくい言葉があります。

 タイトルの、

リッショウ(立証)

というのも、弁護士など法律家にとっては日常しょっちゅう使う言葉なのですが、一般には馴染みがありません。

 実際、何の説明もなく、

「この点をリッショウしなければ、裁判には勝てません。」

と言った場合、だいたい3割くらいの方は、

ジッショウ(実証)

と聴き取られます。

 それほど困る間違いでもないのですが、実証というのは、

「実証できない仮説は真実とは認められない。」(by福山雅治演じる湯川教授。ガリレオより)というとおり、

実際にやってみて証明すること

を言います。

 立証(リッショウ)は、「証拠を挙げて証明すること」です。

 裁判で行うのは、「実証」ではなく、「立証」ですね。

 弁護士が依頼者に説明をするときはできるだけ、ちょっとの心がけをして、馴染みのない言葉を言いかえるほうが、スムーズになると思います。

 たとえば、リッショウと言う言葉を「証明」と言いかえて、

「この点を『証明』しなければ裁判には勝てません。」

と言っても何も問題ありませんし、このほうが、依頼者の「?」がなくて済みます。

 私はこれを日々特に心がけているつもりなのですが、でもときどき、自分に馴染みのある言葉を、説明なく使ってしまうこともあります。

 弁護士1年目くらいのときだと、

「判決で『お金を払え』という命令をもらっても、相手の財産にシッコウできなければ、お金は回収できません。」(弁護士)

「え?シュッコウってどうやってするのですか?」(依頼者)

というようなやりとりをしたこともあったと思います。

 「シッコウ」は「執行」で、相手の財産、たとえば、土地・家とか銀行預金とかを押さえて、そこからお金を強制的に取る手続のことです。判決をとったあと、それを元に、裁判所などに申し立てて行う手続です。

 「シュッコウ」(出向)とは違うのですが、もし、何の説明もなく「シッコウ」と言えば、やはり3割くらいの確率で「シュッコウ」(出向)と聴き取られることになります。

 このような「聴き取り違い」は全く恥でもないし、一般的な教養として無知ということではありません。

 「実証」「出向」のほうが、一般社会では遙かに使用頻度の高い単語ですし、これらの単語が思い浮かぶ人は十分な教養を備えられた方に違いありません。

 ですので、弁護士としては、何の説明もなく「シッコウ」という単語を使ったのが不親切だったな、と反省する、ということになります。

 この場合は、具体例で、「相手の家を差し押さえるとか、預金を差し押さえることができなければ…」とでも説明すれば、分かりやすいでしょう。

 こう説明した上で、「こういうふうに相手の財産から強制的にお金を回収することを法律用語では『強制執行』といいます」とでも言えば、より詳しい。

 説明するとき、相手の立場に立って分かりやすい説明がいかにできるか。

 分かりやすくても不正確ではだめで、正確だけれども分かりやすい説明をする必要があります。これは、一つ一つのことの「本質」をちゃんと深いところで理解していなければできないので、日々勉強です。これを日々できるようにしよう、と努めているところです。

                                        弁護士 村上英樹