スタッフのコラム

読点の位置、語順について 気になる日本語 その4 (弁護士 妹尾圭策)

 次に揚げるのは,直木賞を受賞したある小説の一節である。
 「通報した五十一歳の旅館経営者は,元刑事だから確度の高い情報として,○○県警は緊急配備したという。」
 一読して,意味は判るが,違和感がある。これは,読点の位置が適当でないからである。
 文章を変えることなく,読点の位置だけを変えて,「通報した五十一歳の旅館経営者は元刑事だから,確度の高い情報として,○○県警は緊急配備したという。」とすれば,違和感はない。
 この文章では,主語が後ろの方で出てきており,そもそも,これが文章を難解(というほどではないが)にしている。主語を前に持ってきて,「○○県警は,通報した五十一歳の旅館経営者が元刑事だから,確度の高い情報として緊急配備したという。」とすると判り易い。

 森鷗外の「阿部一族」の一節に,次の文がある。
 「権兵衛の答を光尚は聞いて,不快に思った。」 
 この部分だけを取り出すと,第1文の「聞いて」,第2文の「不快に思った」に共通した主語である「光尚は」が第1文の途中に置かれていて,文章の構成上不自然である。「光尚は,権兵衛の答を聞いて,不快に思った。」とした方が自然である。
 実は,引用した文の前の段落において,権兵衛の答が縷々記載されている。鷗外は,それを受けて,「権兵衛の答を」をあえて文の冒頭に持ってきたと推察される。これは,文芸作品などではしばしば用いられる手法である。
 平明な文章を是とするのであれば,主語である「光尚は」を冒頭に記載した方がよいであろう。
                                    (弁護士 妹尾圭策)