スタッフのコラム

「生前に引き出された預貯金」(弁護士 村上英樹)

 私たちの事務所で相談を受けるケースとして,たとえば,

亡くなったお父さんの預貯金が,生前に,ある人(多くは,子など,相続人の1人)によって多額の引き出しがなされている

不当な引き出し,あるいは,使い込みではないか?

という案件がよくあります。

 このようなトラブルは昔から在りますが,裁判になるケースは増えているように感じます。

 判例雑誌「判例タイムズ」1414号(2015年9月)で,名古屋地方裁判所の裁判官による研究結果として,「被相続人の生前に引き出された預貯金等をめぐる訴訟について」という29ページにわたる特集記事が出ています。

 先日,この特集記事を,当事務所で月1回行っている弁護士同士の勉強会でテーマにしました。

 このような案件は,訴えを起こす人からみて,預貯金通帳や預金の出入金履歴などで,

「亡くなった人の預金から多額の引き出しがある」

という事実が分かっている,しかし,

「その引き出したお金がどこへ行ったのか」

についてはよく分からない(証拠がない)ということが多いものです。

 そういう場合に,裁判でどういう点が争われるか(争われやすいパターン),どのような証拠が決め手になることが多いか,を上の記事では,多数の裁判例を元に分析されています。

・ お金を引き出したのは誰か?(引き出しに「関与」したのは誰か?)

・ 引き出しを亡くなった人は承諾していたか?

・ 引き出したお金の使い途は何か?

などの点に分けて分析されています。

 特に,「使い途」については,

・「引き出した人」がどの程度まで詳しく説明(証明)しなければならないか?

・ 生活費など普通は全ての領収証を残していない種類のお金について,裁判ではどう扱うか?

ということも詳しく検討されています。

 私たちとしては,日々扱っている種類の裁判ですので,個別の事件毎に,「この点はきちっと主張し,証拠を出すことが必要」と思っている点を,この記事を題材に,ある程度よくあるパターン毎に再確認することができました。

 そして,たくさん裁判例を分析すれば,ある程度の「パターン」もみえてくるのですが,そうはいっても,1件1件はそれぞれに事件の「顔」(特殊性)があって,証拠がどれだけあって,裁判所がどんな判断をするかは,結局はケースバイケースということでもあります。

 私たち弁護士としては,

・ 裁判で典型的な「パターン」といえるものについての訴訟活動の熟練度を上げる

ことが重要なことと同時に,

・ それぞれの案件はケースバイケースで,一つずつ「顔」がある。

・ 「パターン」型処理では対応できない,その事件の「顔」(特殊性)に対応したきめ細かい訴訟活動ができるようにする

ということがさらに重要だ,ということを改めて確認しました。

                            弁護士 村上英樹