スタッフのコラム

裁判所の居心地・・裁判こぼれ話 その5  (弁護士 妹尾圭策)

 裁判所では、特別な場合は別として、誰でも自由に法廷を傍聴することができ、また、事件の本人や証人が裁判所に出頭することもある。そして、傍聴人、証人あるいは事件の本人が裁判所の建物に入る際に所持品検査などをされることも、通常はない。
 裁判所の建物は、一般の人が、なんら咎められることなく、自由に出入りすることができるといえる。
 今から20数年前、バブル崩壊が始まった頃で、裁判所の横にあった川の河川敷にホームレスの人の青色のテントが並んでいた当時の、私が勤務していた裁判所での話である。
 その当時は、和解室が不足していたため、裁判官室で和解の話合いがなされることも稀ではなかった。そのため、裁判官室の前の廊下に椅子が並べてあり、そこに事件の当事者が座って、和解の順番を待っていることがしばしばあった。
 私が執務していた部屋の前付近の椅子に、ホームレス風の服装をした同じ人物(某氏ということにする。)をしばしば見かけ、某氏は何時も何かの書面に見入っているか、何かを書き込んでいる様子であった。和解期日が繰り返して行われることは珍しくないから、別の部の当事者が和解期日のために出頭しているのだろうと考えていた。
 ところが、某氏は、かなりの長時間、長期間にわたって、その付近の椅子に座っており、ある時、私の属していた部の裁判長が某氏の手元をのぞき込んだところ、短歌か俳句のようなものが書かれていたとのことであった。
 そこで、私たちは、某氏が、事件の関係者ではなくて、自分の詩作か何かをしていたのではないかと想像した。
 裁判所の建物内は、冷暖房が完備しており、食堂や喫茶店もあって、誰にも邪魔されることなく、終日快適に過ごすことが可能であった。
 某氏は、そのようにして、裁判所を自分の書斎代わりにしていたのかも知れない。
                                        (弁護士 妹尾圭策)