スタッフのコラム

修飾語と被修飾語の関係 気になる日本語 その3 (弁護士 妹尾圭策)

 「自由と正義」(日弁連の機関誌)に掲載された懲戒処分の公告の中に,次のような文章があった。
「被懲戒者は,・・・懲戒請求者らから領収書を発行するよう求められたのに,直ちに領収書を発行しなかった。」,「被懲戒者は,・・・相続財産目録を遅滞なく懲戒請求者らに交付しなかった。」
これらの文章のうち下線部分の表現には違和感がある。

 上記の文のうち,前者でいえば,「発行しなかった。」は,不発行という結果を表したものであって,これを「直ちに」が修飾することはあり得ない。「直ちに」は「発行」のみを修飾し,「直ちに発行」しなかったという意味である。すなわち,文の作成者は,「被懲戒者は・・『直ちに・・発行』しなかった。」,「被懲戒者は・・『遅滞なく・・交付』しなかった。」と読んでもらうつもりであろうし,現にそう読むことは不可能ではない。

 しかしながら,「直ちに」,「遅滞なく」は,本来,動詞に係る言葉であって,名詞に係ることはない。すなわち,「直ちに・・発行する。」,「遅滞なく・・交付する。」のように使用されるべき言葉である。
 したがって,冒頭に掲げた文のうち,前者は,「直ちに領収書を発行することを怠った。」,あるいは,「直ちに領収書を発行するべき義務を果たさなかった。」とするべきであろう。
 
 「婚氏続称した氏を民法791条により婚姻前の氏に変更できないことは前述したとおりである。」
 これは,法律雑誌に掲載された裁判官作成の論文の一節である。なお,婚氏続称というのは,民法767条2項の規定により,婚姻中の氏を離婚後も続けて称することである。
 素直に読めば,「民法791条により」は,「婚姻前の氏に変更できない」までを修飾するように読め,これでは意味をなさない。「民法791条により婚姻前の氏に変更することはできない」とするべきである。

                           (弁護士 妹尾圭策)