スタッフのコラム

改正民法の施行スケジュール(弁護士 佐長すみれ)

 

 

 民法の改正が行われ,民法のうち債権法(契約等に関する法律)と,相続法(相続に関する法律)が新しくなりました。債権法も相続法も,多くの人に影響する重要な法律です。久しぶりの大改正だけあって,債権法,家族法ともに種々の新制度が盛り込まれていますが,制度や条文ごとに施行日が異なっているため,注意が必要です。

 

 

 改正民法の施行スケジュールは,以下の通りです。

2018年4月1日 定型約款に対する反対の意思表示に関する規定が施行

2019年1月13日 自筆証書遺言の方式を緩和する方策が施行

2019年7月1日 改正家族法の原則的な施行日(自筆証書遺言の方式緩和に関する規定と,配偶者居住権に関する規定以外が施行)

2020年3月1日 公証人による保証意思の確認手続についての規定が施行

2020年4月 1日 改正債権法の原則的な施行日(定型約款に対する反対の意思表示に関する規定と,公証人による保証意思の確認手続についての規定以外が施行),配偶者居住権及び配偶者短期居住権に関する規定が施行

2020年7月10日 遺言書保管法(法務局における自筆証書遺言の保管制度)施行

 

 

各規定について,施行順に説明します。

 

 

 2018年4月1日,定型約款に対する反対の意思表示に関する規定が施行されます。

 改正債権法は,定型約款に関する定めを置きました。定型約款とは,定型取引に用いられる条項のことです。定型約款は民法改正前から用いられてきましたが,この度,法律で定型約款の効力を明確にしました。

契約ごとに当事者が内容を協議し合って決めるのが民法の原則ですが,経済が発展した現在,いちいち内容を協議しない定型の取引が増えてきました。これが定型取引です。事業者があらかじめ契約の内容を決めておき,不特定多数のお客さんと,いつもその内容で取引を行います。例としては,電車に乗る際の旅客運送契約,ホテルの宿泊契約,生命保険契約等が挙げられます。

 事業者は,定型取引の際,取引の内容を列挙した定型約款を用いるのが通常です。誰しも,何らかのサービスを申し込む際に,条項がずらっと並んだ申込書にサインした経験があると思います。これが定型約款です。定型約款については,客側に不利な条項が差し込まれていることが多く,約款が有効か(定型約款が契約の内容となるのか)が問題となることが度々ありました。

 今回の改正では,定型約款が,相手方の利益を一方的に侵害するものでない限り,定型約款が,そのまま契約の内容になると定めました。

 定型約款に関しては,改正債権法施行日(2020年4月1日)前に締結された契約にも改正民法が適用され,定型約款が契約の内容となります。しかし,施行日前(2020年3月31日まで)に反対の意思表示をすれば,定型約款が契約の内容とならなくなります。この反対の意思表示は,改正に先んじて,2018年4月1日から行えます。

 

 

 2019年1月13日,自筆証書遺言の方式を緩和する方策が施行されます。

 自筆証書遺言とは読んで字のごとく,遺言者が自筆で書いた遺言のことです。公正証書遺言と違って公証役場に行く必要がなく,いつでも手軽に作成できることから,広く用いられている遺言方法です。

これまでは,財産目録も含めて遺言全文を手書きする必要があったため,多くの種類の財産を保有する人は,遺言に財産目録を添えるのが非常に大変でした。2019年1月13日からは,遺言にワープロ等で作成した財産目録を添えることが可能になります。但し,ワープロ等で作成した財産目録には,1枚1枚に手書きで署名し,押印する必要があります。また,財産目録以外の遺言本文は,依然として手書きする必要があります。

 

 

 2019年7月1日,一部の例外を除いて,改正家族法が施行されます。主に以下の5つの点が変更になります。

①遺産分割等に関する見直し

婚姻期間20年以上の夫婦が居住用不動産を遺贈すれば,当該不動産の価値を除外してその他遺産を分割できます。相続に先んじて故人の預貯金の一部払い戻しが受けられます。遺産分割前に共同相続人の一人が遺産を処分した場合の対策を定めています。

②遺言制度に関する見直し

遺言執行者の権限を明確にします。自筆証書遺言の保管制度を新設します。

③遺留分制度に関する見直し

遺留分は現物返還でなく,金銭請求とします。

④相続の効力に関する見直し

相続した不動産についても,登記等の対抗要件を備えなくては,第三者に対して権利主張できないものとします。

⑤特別の寄与の制度創設

相続人以外の者で,故人の療養看護を行った者がいれば,その者にも金銭請求権を認めます。

 

 

 2020年3月1日,公証人による保証意思の確認手続についての規定が施行されます。

 改正債権法は,事業用の融資について,経営者以外の人が保証人になろうとする場合,公証人による事前の意思確認が必要と定めています。この事前の意思確認は,保証契約を締結する前の1か月以内に行われている必要があります。そのため,改正債権法施行日から保証契約が行えるよう,改正法施行日の1か月前から,この公証人による保証意思の確認手続が行えるようにしています。

 

 

 2020年4月 1日,一部の例外を除いて,改正債権法が施行されます。主な改正点は,以下の4つです。

①債権の消滅時効の統一

業種ごとに様々であった短期消滅時効を廃止し,債権者が権利を行使できることを知った時から5年,権利を行使できる時から10年のいずれか早い方との規定に統一します。

②法定利率

法定利率を現行の年5%から年3%に引き下げた上で,3年ごとに法定利率を変動させる仕組みを新設します。

➂保証人の意思確認

事業用の融資について,経営者以外の者が保証人になろうとする場合,公証人による意思確認を必要とする仕組みに改めます。

④約款

定型約款を契約内容とする旨の表示があれば,個別の条項に合意したものとみなされ,約款が契約の内容となります。しかし,信義則(民法1条2項)に反して相手方の利益を一方的に害する条項は無効とされます。また,事業者が定型約款を一方的に変更するための要件についても定めています。

 

 

 また,同日,他の改正家族法に遅れて,配偶者居住権に関する規定が施行されます。

 配偶者居住権には短期と長期の2種類があります。まず,配偶者が遺産である不動産に居住していた場合,相続が終わるまで(もしくは6か月が経過するまで)無償で住める権利を認めます(短期配偶者居住権)。

また,遺言や遺産分割協議によって,終身又は一定期間,配偶者に建物の使用を認めることを内容とする権利を定めることができます(長期配偶者居住権)。今まで,配偶者が残された家に住み続けたいと希望した場合,家の価値が高いため,法定相続分に従って遺産分割すると預金がほとんど受け取れない(場合がある)との問題がありました。長期配偶者居住権は,不動産をまるごと相続するよりは金銭的に安く評価されるため,配偶者が残された家に住み続けながら,預金も受取って,老後を安心して過ごせるようにと作られた規定です。

 

 

 2020年7月10日,新しい法律である,法務局における遺言書の保管等に関する法律(通称は「遺言書保管法」)が施行されます。これは民法の一部ではなく,全く新しい法律ですが,実質的には相続法改正の一部と言えるでしょう。

 自筆証書遺言は自宅で保管されることが多かったため,死後発見されなかったり,相続人が勝手に改ざん・隠匿して相続争いが起きたりといった問題がありました。そのため,法務局で遺言書を預かる新制度を作って,これらの問題を予防できるようにしました。また,この保管制度を利用すると,検認手続が不要になるというメリットもあります。検認手続とは,相続人が家庭裁判所に集まって,裁判官に自筆証書遺言を開封して中身を確認してもらう手続のことです。

 なお,施行日(2020年7月10日)より前に遺言書の保管を申請することはできないので,注意が必要です。

 

 

 以上,改正民法の施行スケジュールと,改正内容のポイントとなります。民法は,普段の生活や取引に直結する法だけに,いつから変わるのかが重要です。今まで使っていた契約の雛形が法律違反になってしまったとか,もう使えるはずと思っていた新制度がまだだった,というような事態にならないよう,気をつけて頂ければと思います。

 

 

弁護士 佐長すみれ

(2019.3.25加筆)